日本発の欧州便、往復すれば地球一周

ANA羽田発ロンドン行211便の機内モニターで表示された地図・ナビゲーション画面より(2024年12月)

2025年1月現在、日本からヨーロッパ各地へ直行する航空便で往復すると、結果として地球を一周している可能性が高い。

3年前の2022年2月に発生したウクライナ侵攻以降、欧米系と日本の航空会社は最短距離であるロシア・シベリア上空の飛行を避け、北極海や黒海・中国上空など南北へ“遠回り”するルートを選択しているためで、以前より飛行時間が長くなった。

要する燃料も増えることになり、乗務員の勤務も伸びる。そのコストは運賃に反映され、利用者の負担増につながっている。

一方、日本~欧州間の最短ルートが閉ざされたことで、少しでも偏西風(ジェット気流)の追い風を得ようと往復で異なるルートを飛ぶことが多くなり、窓から眼下に風景を見ることが叶えば、乗客としてマイナス面ばかりとは言えないのではないだろうか。

日本発の往路に使われるケースが多い「北回り」ルートは、1980年代まで主流だったかつての“アンカレッジ(米国アラスカ州の空港)経由”と呼ばれた航路に似ている。

ロシアがまだ「ソ連」と呼ばれていた時代に同国の上空通過を避け、さらにルート上の米国領内で途中給油もできることから日本と欧州を結ぶメイン航路だった。

現在採用されている北回りルートは、給油ストップこそないが、かつてのアンカレッジ経由と同様にアラスカ州付近を経由し、北極海からグリーンランド(デンマーク領)の上空を通過して欧州へアクセスする。地球儀で言うと“てっぺん”近くを飛んでいく。

北回りルートの飛行例、ロシア領内は通らず、米国領のアラスカ上空を通過し、グリーンランドへ至る(2024年12月、羽田発・ロンドン行ANA211便の機内モニターより)

ほとんどが海上なので窓の外の風景を楽しめる時間帯は多くないが、オーロラが現れる可能性があったり、万年雪に覆われた巨大な島・グリーンランドの姿を眼下に望めたり、アイスランドの上空をかすめる経路が採られる場合もある。

人口わずか5.5万人といわれるデンマーク領のグリーンランドや、火山で知られる島・アイスランドを訪問する機会はなかなか無いだけに、空の上から見られるだけでも価値がありそうだ。窓の外にオーロラが現れた日など、運賃以上の満足感を得られるのではないか。

南回りルートの飛行例、こちらもロシア領域を避け、東欧地域や中央アジア、中国を経由して日本へ至る(2024年12月、ウィーン発・羽田行ANA206便の機内モニターより)

一方、欧州各地から日本への復路は「南回り」と呼ばれるルートを採る場合が多いようだ。東欧を中心とした欧州各国や黒海、カスピ海、カザフスタンなどの中央アジア、中国政府の支配下にある「新疆(しんきょう)ウイグル」と「内モンゴル」の両自治区、中国の北京や天津周辺、黄海(こうかい)、韓国などの上空を飛んで日本へと至る。

“グリーンランド経由北回り”と比べ、“黒海・中国経由南回り”は、ほぼ陸地を飛行するのが特徴で、天候さえ良ければさまざまな国や都市の姿が窓の外に見られる可能性がありそうだ。

)上記に挙げた飛行ルートは2025年1月現在の一例で、季節や天候などによって変わることがあり、往復とも同じルートとなる可能性もありうる

北極海経由でロンドンまで約15時間

そんなプラス面を期待しながら2024年12月下旬に羽田空港からロンドン・ヒースロー行のANA便に搭乗した。

羽田・ロンドン便の機材にはエコノミークラスにも13インチ超だという大型モニターが設置され、機外カメラの映像も見ることができた(2024年12月、ANA211便)

ANAの羽田・ロンドン便に使用されていた新型の「B777-300ER」という機材は全212席と大型ではないが、大型モニターがエコノミークラスにも付いていて、飛行位置を示すナビゲーション表示はもちろん、機体前方と下方に備え付けられた機外カメラからの映像もリアルタイムで見ることもできる。

座席の環境は良好だったが、外の天候は優れず、風景が見えたのは羽田離陸時とロンドン着陸時だけという惨状。雲は視界を遮るだけでなく、そのなかに突っ込めば機体が上下左右に揺れることにもつながるし、ろくなことはない。

グリーンランドもアイスランドも雲に覆われて窓の外にその姿を確認することはできなかったので、ナビゲーションのイラストでイメージするしかなかった(2024年12月、羽田発・ロンドン行ANA211便の機内モニターより)

この日はアラスカ付近をはじめとして追い風(偏西風)にほとんど乗れず、ロンドン・ヒースローまでロシア・シベリア経由時代より2時間以上長い15時間近くを要した。普段の所要時間は14時間~14時間30分あたりなので、“ハズレ”の日である。そのうえ、期待していたグリーンランドもアイスランドもただ雲の上を飛ぶだけで見られず、長時間搭乗の疲れが倍増していくようだった。

復路は中央アジア・中国上空を飛ぶ

ANAの羽田~ウィーン便は2019年2月に開設され、当時は往路11時間40分、復路11時間ほどで毎日運航したが、新型コロナ禍で運休。2024年8月の再開後は週3日の運航となっている(2024年12月、ウィーン国際空港)

欧州から日本への復路は、年の瀬にオーストリア・ウィーンを飛び立った羽田行のANA便。「B787-9」という機材に機外カメラは無く、ナビゲーション表示も予定航路がロシア・シベリア経由時代のままだった。ロンドン便と比べるとモニターも大きくはない。

スロバキアの首都・ブラチスラヴァ(Bratislava)からも近いウィーン国際空港を10時30分に離陸すると、ハンガリーに入る頃までは何とか風景が見えていたが、ルーマニアあたりから完全に雲の上。

「南回り航路」では黒海やカスピ海、中央アジアの上空は見どころだが、この日も雲に遮られほとんど風景は見えなかった(2024年12月、ウィーン発・羽田行ANA206便の機内モニターより)

黒海カスピ海も、続いて現れるトルクメニスタンウズベキスタンカザフスタンといった興味深い中央アジアの国々の姿も見えない。

退屈になって機内の音楽プログラムを探ると、「さらばシベリア鉄道」(1980年、松本隆作詞、大瀧詠一作曲)という著名曲が入っており、ロシア・シベリアを徹底的に避けた飛行ルート上で聴けたことに思わず苦笑してしまう。

歌詞にあるシベリアの「涙さえ凍りつく白い氷原」の上空を飛ぶと、かの国へ相応の上空通過料を支払うことになるし、ウクライナ侵攻が続く限り安全面からも氷原の空を飛ぶことは無いのだろう。

ウィーン発・羽田行ANA206便の機内エコノミークラスエリア(2024年12月)

そんなことを考えながら短い眠りから覚めると、中国政府の支配下にある「新疆(しんきょう)ウイグル自治区」の上空に達しており、続く「内モンゴル自治区」に入ると雲が抜け、包頭(ボグト)の街の灯りが遠くに見え、フフホト(ホフホト)上空では眼下に光の粒が散りばめられた。

窓の外には「内モンゴル自治区」のフフホト(ホフホト)の灯りが広がった(2024年12月)

これまでフフホトという地名さえも知らなかったが、偶然にも空の上から夜の街の姿を見たことで俄然興味が湧いてくる。内モンゴル自治区の省都で227万人が住む大都市だという。

天津付近でも再び街の光を見ることができたが、黄海(こうかい)付近から雲に覆われ、羽田到着直前まで窓の外には何も見えなくなった。

北京市街を避けるためか、北朝鮮から離れるためか、中国国内ではあまり真っすぐには飛んでいないようだった(2024年12月、ウィーン発・羽田行ANA206便の機内モニターより)

ロシア・シベリアと、さらには北朝鮮の上空も避けた「南回りルート」で飛行してきたANAのウィーン羽田便は、偏西風の追い風も受けて想定より30分以上早い11時間55分で早朝の羽田空港に到着。復路11時間台なら以前のロシア・シベリア経由時と大きく変らない。なにより、少しでも窓の外に風景が見られると、飛行機移動の苦痛が幾分か軽減された気持ちになった。

(2025年1月公開)

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