ハワイ島を走る「ヘレオンバス」の今

ハワイ島を走る路線バス「ヘレオンバス(Hele-On Bus)」は、大陸のようにダイナミックな車窓を楽しめるのが魅力で、近年は空港や観光スポットにも乗り入れるなど路線数の拡充を続けており、観光や島内横断の足として使いやすくなっている。そんな路線バスの姿を紹介したい。

四国の半分くらいのサイズがあり、オアフ島の7倍近くという面積を持つハワイ島だが、人口はオアフと比べて5分の1規模にとどまる。

そのため、ハワイ島のヘレオンバスにはオアフ島を走る「TheBus(ザ・バス)」ほどの路線数はないが、2023年9月時点で計25のルートを設け、20万人が住む街や集落の大半にはバスを走らせているイメージだ。

ヘレオンバスが発足した経緯はちょっと変わっていて、今から100年ほど前にヒロ(Hilo)の日系人が始めた「サンパン(Sampans)」と呼ばれる“バス”が源流だと言われている。

サンパンは昔の霊柩車みたいな形に拡張改造した乗用車をオープンエアにした乗物で、乗合タクシーに近い存在だったらしい。

ホノルルの出版社からはサンパンバス(Sampan Bus)をテーマにした本も出版されている(Native Books「Hilo’s Loveable Sampan Bus」の販売ページより)

ハワイ島だけで独自に発展した名物的な移動手段として親しまれていたが、自由競争だったためか1970年代前半までに衰退し、郡(行政)当局が新たな公共交通機関として整備したのがヘレオンバスだった。

名称に用いたヘレオン(Hele On)という言葉は、ハワイ語が一部混在した「ハワイアンピジン英語」で“移動する”とか“先に進む”といったような意味がある。

サンパンが独特な“交通機関”だったので、それを受け継いだ路線バスの名も独自性を求めたのだろうか。

このあたりオアフ島の「TheBus」やマウイ島の「マウイバス(Maui Bus)」、カウアイ島の「カウアイバス(The Kauai Bus)」といったストレートなネーミングとは一線を画す。

雨のヒロを走る少し昔のヘレオンバス、どこかで見たことがあるデザインは、オアフ島の「TheBus」から譲渡を受けた車両。ヘレオンは中古車や古い車両が多く、一時期は故障続きで運休が相次いだこともある

雨のヒロを走る最近のヘレオンバス、イメージアップの一環か、華やかな独自ロゴとデザインが使われている。こちらも「TheBus」からの譲渡車両だが外観が変わったためか中古車には見えない

ヘレオンバス自体は1975(昭和50)年の発足なのでまもなく半世紀を迎えるが、それ以前のサンパン時代も含めれば100年を超える。

前身時代を含め120年以上の歴史を持つTheBusにはかなわないが、ハワイ諸島の老舗交通機関であることは間違いない。

ヒロとコナでの移動手段に

ヘレオンバスの大きな目的は、郡庁所在地の「ヒロ」と観光の拠点である「コナ(カイルア-コナ)」を中心とした西海岸での移動手段を確保し、近郊の街から両エリアへ島民を輸送することにある。

路線図を見ると、海岸線を中心に人の住む地域をほぼ網羅できるほどに路線が伸びているが、なかには1日に1往復だけとか、朝のみの運行とか、地元住民以外は利用できないような系統も見られる。

ハワイ島路線バス(ヘレオンバス)マップ

ヘレオンバスの路線図、25の路線で人の住むエリアをほぼカバーし、ヒロとコナ間の島内横断バス(1番・2番・80番)も設定(2022年8月版「Hele On Bus System Map」に日本語表記などを加筆)

観光で使う機会がありそうなのは10路線ほどで、ヒロとコナを結ぶ「島内横断便」をはじめ、空港を含めた「ヒロ市内便」や、ヒロと「キラウェア火山(Kilauea Volcano)」を結ぶバス、コナでは市街を走る「トロリー便」と西海岸線(サウスコハラコースト/コナコースト)の路線あたりだろうか。

路線番号で見ると1ケタと2ケタの番号が「中・長距離」の路線で、「100番台」はヒロ、「200番台」がコナの周辺部を走る“市内バス”という位置付けだ。

たとえばヒロでは、「101番・ケアウカハ(Route 101 Keaukaha)」は空港に立ち寄りながら市街地に近い海岸線を往復する。ヒロ空港からダウンタウンのバスターミナルへ行くにはこれに乗る。

ヒロ市街のヘレオンバス路線図、ダウンタウンにある「モオヘアウ・バスターミナル(Mo’oheau Bus Terminal)」と中心部から少し離れた大型ショッピングセンター「プリンス・クヒオ・プラザ(Prince Kuhio Plaza)」が拠点となっている(2022年8月版「Hele On Bus System Map」に日本語表記などを加筆)

103番・ワイアケアウカ(Route 103 Waiakea-Uka)」はヒロの中心部や山に近い住宅地を経由して島内最大のショッピングセンター「プリンス・クヒオ・プラザ(Prince Kuhio Plaza)」を結ぶ。

101番も103番も一部で環状的な運行形態としているので、往路か復路に“遠回り”を強いられることがある。

両路線とも日中は1時間に1本程度の運行とし、ヒロのダウンタウンにある「モオヘアウ・バスターミナル(Mo’oheau Bus Terminal)」を発着している。

カイルア-コナのヘレオンバス路線図、大型ショッピングモール「コナ・コモンズ(Kona Commons)」内にある大型ディスカウントストア「Target(ターゲット)」前がコナエリアの拠点となっており、コナ国際空港に乗り入れる路線も目立つ。201番~204番が市内路線(2022年8月版「Hele On Bus System Map」に日本語表記などを加筆)

一方、コナでは、カイルア-コナの大型ショッピングモール「コナ・コモンズ(Kona Commons)」内にある大型ディスカウントストア「Target(ターゲット)」の裏手付近に位置する「ルヒア・ストリート(Luhia Street)」(停留所名は「Luhia St@Loloku St」)が発着拠点となっており、ここへ行けば大半の路線に乗れる。今のところ専用施設は無いが、いわば“コナ・バスターミナル”的な存在だ。

201番~204番のバスがコナの市内便で、このうち「201番・コナ・トロリーアリイドライブ経由(Route 201:Kona Trolley via Ali’i Drive)」は、以前から走っていた“観光用トロリー”をヘレオンバスが最近受け継いだもので、「ケアウホウ・ショッピング・センター(Keauhou Shopping Center)」まで海岸線を走る。

「201番・コナ・トロリー」はこれまで地元の観光事業者などが共同出資で運行していたトロリーバスを2021年8月からヘレオンバスが受け継ぎ、朝6時台から21時台まで1時間に1本の間隔で運行している(ヘレオンバス「Route 201:Kona Trolley Route Timetable」より)

202番・ノース&セントラル・カイルア-コナ(Route 202:North&Central Kailua-Kona)」と「203番・ノース・カイルア-コナ(Route 203:North Kailua-Kona)」の両路線は、コナ国際空港(Ellison Onizuka Kona International Airport)へ乗り入れている。

これら3路線はそれぞれ1時間に1本の間隔で運行されているので、観光でコナ周辺を移動する際や空港からのアクセスに活用できそうだ。

深夜にも走る島内横断バス

ヒロとコナを結ぶ「1番」のバス、ヘレオンバスの運行は空港シャトルサービスなどで知られる「ロバーツハワイ(Roberts Hawaii)」が受託しており、一部の路線ではロバーツハワイ仕様の車両にステッカーを貼って運行していた(モオヘアウ・バスターミナル)

ヘレオンバスを象徴する路線といえば、ヒロとコナの2都市を結ぶ「島内横断バス」で、路線番号は「1番」「2番」「80番」の3つである。

これら3路線は路線番号が違うように経由地と行先が若干異なっており、1番と80番は島の北部にある「ワイメア(Waimea)」の街を経由する“北回り便”で、2番島の真中付近を最短で突っ切るルートを採っている。

1番バスの路線図、ヒロから海岸線に沿ってホノカアから内陸部のワイメアにいたり、マウイ島行のローカル便のみが発着する「ワイメア-コハラ空港(カムエラ空港)」を経由し、内陸部の州道190号(ルート190)を通ってカイルア-コナを結んでいる(ヘレオンバス公式サイトの時刻表に日本語表記などを加筆)

もともとはワイメア経由しかなかったのだが、「サドルロード」とか「ルート200」とか「ダニエルK.イノウエハイウェイ」といった色んな呼び方がある“横断道路”が整備されたことから、近年になって路線バスも走るようになった。

2番バスの路線図、ヒロから島の中央付近を突っ切っる最短ルート「サドルロード」経由で時間短縮を図る一方、コナでは「サウス・コハラ」エリアのリゾート地に立ち寄りながらカイルア-コナを結んでいるのが特徴(ヘレオンバス公式サイトの時刻表に日本語表記などを加筆)

富士山より高い2つの火山に挟まれた人の住まない裾野を延々と走る2番バス。まだ一度も乗ったことはないが、アメリカ本土の「グレイハウンド(Greyhound=長距離バス)」で大陸を横断する時のような車窓が見られるのだろうか。ただ、こちらは一面の砂漠ではなく、固まった溶岩に囲まれた地という違いはある。

ヒロ側はすべて「モオヘアウ・バスターミナル」が発着地となっているが、300メートルほど離れた「ベイフロントパーク」(Bayfront Park&Ride=Kamehameha Ave@Pauahi St)からも乗降は可能で、バス利用者向けの無料駐車場はこちらのほうが広い。

コナ側の発着地は「1番」と「2番」がカイルア-コナの「ターゲット(Target)」前で、「80番」はコナ国際空港だ。

80番バスの路線図、ヒロからワイメアまでは1番と同じルートだが、外周の州道19号線(ルート19)を走り続け、西海岸のリゾート地に細かく立ち寄りながら、カイルア-コナの中心部までは行かず、途中のコナ国際空港を終点としている(ヘレオンバス公式サイトの時刻表に日本語表記などを加筆)

ヒロ方面行では、80番の一部便が途中のワイコロア・ビーチ(Waikoloa Beach)にある大型ホテル「ヒルトン・ワイコロア・ビレッジ」が始発となっている。

1日あたりの運転本数は「1番」が2本程度と少なく、「2番」は4本から5本、「80番」が一番多く6本あり、片道あたりあわせて最大12便が運行される。

見かけ上の運転本数は多いのだが、特定の時間帯に固めて運行されているのが特徴だ。

一例として2023年9月時点での発着時間を以下に記してみた。

<ヒロ発→コナ行>

  • 3:15(80番)→6:20着
  • 3:35(80番)→6:55着
  • 4:15(80番)→7:21着
  • 4:30(2番)→7:20着
  • 5:00(80番)→8:11着
  • 5:00(2番)→7:45着
  • 9:30(1番)→12:15着
  • 11:00(80番)→14:15着
  • 13:15(2番)→16:00着
  • 16:44(1番)→19:23着
  • 16:45(2番)→19:30着
  • 19:15(80番)→22:20着
  • 20:45(2番)→23:30着

<コナ発→ヒロ行>

  • 4:50(2番)→7:39着
  • 7:30(80番)→10:44着
  • 7:45(1番)→10:41着
  • 12:45(1番)→15:41着
  • 13:30(2番)→16:19着
  • 13:55(80番)→16:59着
  • 15:15(80番)→18:21着
  • 16:00(80番)→18:26着
  • 16:35(80番)→19:04着
  • 17:00(2番)→19:49着
  • 19:45(2番)→22:34着
  • 23:00(80番)→翌2:09着

)コナ側の発着地は便によって異なる

ヘレオンバスが担う島内経済

島内横断路線の時刻表を見た時、「コナ23時発→ヒロ2時着」とか「ヒロ3時15分発→コナ6時20分着」といった“半夜行便”があることに驚かされた。だいたい、ヒロ発は未明から早朝に出発を固めすぎである。

80番バスの時刻表、横断路線のなかでは運転本数がもっとも多い。ヒロ方面行の一部はワイコロアのヒルトンが始発となっている(ヘレオンバス公式サイトの時刻表に日本語表記などを加筆、時刻表は2023年9月時点)

80番の発着地はコナ国際空港なので、深夜着や早朝発の飛行機に接続するためだろうかと想像してみたが、ヒロにも空港があるので、わざわざ島の反対側まで行く必要性は薄い。コナは国際便や米国本土便の数が少ないので、ヒロからホノルルへ飛んで乗り継ぐほうが便利である。

色々と想像するのは昔の鉄道時刻表を読んでいる時のように楽しかったが、その答えを見つけた時、「ハワイらしい」と唸ってしまった。

島内横断便のいびつとも言えるダイヤは、コナ地域の観光ホテルで働く人に最適化されたものだという。

島内横断路線に使われる大型バス(イメージ)

人口の多いヒロ周辺から観光拠点であるコナエリアへ、未明から早朝の便は朝のシフト勤務に間に合うよう設定されたもので、昼間便はそうした人の帰宅用に設けられ、夜遅い便はディナー時の勤務を終えた従業員が乗るようだ。

もちろん、それ以外の人も利用するだろうし、2番と80番は西海岸沿いの著名ホテルを経由しているので昼間の便は観光客も利用しやすいが、ダイヤ上は主要顧客である観光ホテル従業員の行動に合わせて組まれている。北回りの80番バスが海岸沿いの街に一つひとつ立ち寄り、従業員を拾いながら朝の勤務開始時までに西海岸のホテルへ送り届けていく。

2番バスの時刻表、1日5本あるなかでヒロとカイルア-コナの双方から13時台に出発する便は観光にも使いやすそうだ(ヘレオンバス公式サイトの時刻表に日本語表記などを加筆、時刻表は2023年9月時点)

365日24時間休みがないハワイ島の観光業を支えるためには、ヘレオンバスも同じようにほぼ24時間体制で運行し、島の主要産業を支えていくミッションがあるのだろう。行政が関与する公共交通機関ならではだ。

1番バスの時刻表、1日2本と少ないが観光にも比較的使いやすい時間帯に運行されている(ヘレオンバス公式サイトの時刻表に日本語表記などを加筆、時刻表は2023年9月時点)

オアフ島のTheBusでも深夜2時とか3時とかに西部や北部の街を発着する便があるが、これはハワイ島と同じ理由があるのかもしれない。観光の中心地は居住費も高く、住むのはなかなか難しいが、雇用は多く生み出している。

このほか、ヒロとコナ間を移動するには、直行の横断3路線に加えて南部の「オーシャン・ビュー(Ocean View)」という街とキラウェア火山を経由した“南回り”の方法も一応はある。ヒロエリアから見て「11番・12番・90番」の路線を上手く乗り継ぐことになり、そのチャンスは1日1回程度にとどまる。

たびたび行われる運賃無料化

ヘレオンバスの運賃は1乗車あたり「2ドル」と設定されているが、これは長距離便でも変わらない。ヒロからコナまで3時間乗ろうと、近所の停留所まで数分間乗ろうと同じ額である。

ヘレオンバスの運賃は2022年2月27日から2025年12月31日まで「無料」であるとの案内が時刻表などに掲載されている(2023年2月版「Route 1:Hilo to Kailua-Kona Route Timetable」より)

しかも、連邦政府からの補助金が得られると運賃無料化を行う傾向があり、2005年から2013年まで8年にわたる無料運行に続き、最近では2022年に新型コロナ関連で補助金をゲットしたらしく、現時点で2025年末までの期間は運賃不要となった。

当面の間、ヘレオンバスは無料で乗り放題である。

ハワイ島を訪れたならば、こんな大盤振る舞いを続けるめずらしい交通機関を試してみる価値は十分にあるのではないだろうか。

)2026年1月8日追記:複数の現地報道によると2028年12月31日まで運賃の無料期間は延長されたとのこと。最新情報は「Hele-On Bus」の公式サイトをご確認ください

ヒロのダウンタウンにある「モオヘアウ・バスターミナル」

(2023年10月公開)

)ヒロ空港からダウンタウン、キラウェア火山行バスの乗車記はこちらの原稿を参照

)ホノルルとハワイ島間の航空路線については前の原稿「ホノルルからハワイ島『ヒロ』へ飛ぶ」も参照を