ハワイに滞在する4泊のうち1日くらいは別の島も訪れてみようと考えた時、迷いなく行先に選んだのは、路線バス網が充実しつつある「ハワイ島(Island of Hawaii)」だった。
ハワイ諸島には人の住む島が8つあるが、観光で訪れるのはホノルルやワイキキのある「オアフ(Oahu)」を中心に、昔は“カワイ島”とも呼ばれていた北端の「カウアイ(Kauai)」や観光地として知名度の高い「マウイ(Maui)」、そしてもっとも大きな「ハワイ(別名ビッグアイランド)」の4島である。
このほかの4島は、カウアイの隣にある「ニイハウ(Ni’ihau)」は個人が所有しており、軍事訓練の場所だった「カホオラウェ(Kaho’olawe)」と合わせて観光客が渡航できる可能性はほとんどない。オアフとマウイの中間あたりにある「モロカイ(Molokai)」と「ラナイ(Lanai)」の両島は飛行機の定期便こそ飛んでいるが、何らかの目的を持たない限り訪問する機会は多くないだろう。
個人的な旅の志向として欠かせない公共交通網という面で考えると、ハワイ諸島の「首都」でもあるオアフでは「TheBus(ザ・バス)」が島内をくまなく走っていて何ら不自由を感じたことがないし、これから鉄道「スカイライン」も伸びていく。
一方、カウアイ、マウイ、ハワイの3島はガイドブックなどに“公共交通はほぼ無い”といった紹介が目立っていて、以前は「人口規模的にそうなのだろう」と納得させられていた。
ところがインターネットが普及し始め、現地の行政機関や旅行者が自ら情報を発信し始めるようになると、これらの3島にも路線バスが走っていて、近年は路線を拡充しつつあることが分かってきた。
カウアイ島とマウイ島では、1990年代前半から「カウアイバス(The Kauai Bus)」と「マウイバス(Maui Bus)」という名で運営されており、ハワイ島にも路線バスがあった。

「カウアイバス(The Kauai Bus)」のFacebookページ、リフエ(LIHUE)を中心に島内9路線を展開(2023年9月現在)。リフエ空港に乗り入れる「ROUTE 100」と「ROUTE 200」は日中1時間に1本の間隔で運行している。運賃は1乗車2ドル

「マウイバス(Maui Bus)」の時刻表表紙(右)と路線図、2023年9月現在はカフルイ(Kahului)とワイルク(Wailuku)のループ便など島内12路線(2023年9月現在)を展開し、カフルイ空港にも乗り入れる。運行はロバーツ・ハワイが受託。運賃は1乗車2ドル(公式サイトより)
特にハワイ島は「ヘレオンバス(Hele-On Bus)」という独自の名が付けられ、巨大な島を横断する路線さえ持ち、地元住民とごく一部の旅行者に愛用されているらしい。

ハワイ島の「ヘレオンバス(Hele-On Bus)」システムマップ、東海岸の郡庁所在地「ヒロ(Hilo)」と西海岸のリゾート地「コナ(Kona)」を中心に島内25路線(2023年9月現在)を展開し、ヒロとコナの両空港にも乗り入れる。運行はロバーツ・ハワイが受託。運賃は通常1乗車2ドルだが、連邦政府の補助金を活用し2025年まで無料化(公式サイトより)
その昔、「わずか1ドルの運賃でハワイ島を横断できる」という情報に関心を持って調べ始めたが、ヘレオンバスの公式サイトは日本からのアクセスを拒否しているようで、まったく見ることができなかった。
今年(2023年)春になってようやく新しい公式サイトが公開されて日本からの閲覧にも支障は消えたが、地元住民向けなのでそれまで多くの人は困ることもなかったようだ。
ハワイ島の路線バスを知った当時はインターネット上で情報収集を拒否されたこと自体が新鮮で「ならば現地に行って乗ってやる」などと妙な感情が芽生え、実際に実行した。
空港からの足がなかったり、地元のショッピングセンターみたいなところで降ろされたりと不便極まりなかったが、古びたバスでハワイ島の広さを実感しながら走破できたことは、ワイキキやホノルルでは味わえない旅の喜びだった。
それから再訪できないまま15年くらい経っている。
この間にヘレオンバスは少しずつ発展を遂げ、空港に乗り入れたり、運転本数を増やしたり、観光地のキラウェア(Kilauea)火山にも路線を伸ばしたりと観光客にも使いやすくなったようだ。
何もためらうことなく、ハワイ島へ行くことに決めた。
諸島へは「ハワイアン航空」ほぼ一択
オアフからカウアイ、マウイ、ハワイの3島へは今も昔も観光客向けの「日帰りパッケージ商品」があって、ホテルからの送迎と往復の飛行機に加え、現地での案内と観光スポット周遊がセットされ、“離島めぐり”が手軽に楽しめるようになっている。
そうしたツアーに参加すれば、便利とはいえない路線バスになど無理して乗る必要もないのだが、地元の交通機関に乗らなければ出会えない風景は多いし、航空券もインターネットで簡単に買える。ワイキキからホノルル空港までは「TheBus」で行けばいい。
現在、ホノルルからハワイ島へ渡るには、「ハワイアン航空」(Hawaiian Airlines=HA)の「一択」という状態で独占とも言える。
かつてハワイの島々を高速フェリーで結ぼうという計画が一部実現し、私のような飛行機嫌いで離島好きの人間を一瞬喜ばせたのだが、1年と少し運航しただけで終了した。諸島が海路で結ばれると不都合をこうむる層が一定数いるらしく、苛烈な“自然保護運動”の成果として運営会社が倒産に追い込まれている。
また、当時は「アロハ航空(Aloha Airlines)」とか「go!(格安航空)」とか「アイランドエアー(Hawaii Island Air)」といった離島を結ぶ航空会社が複数あって運賃も安く抑えられていたのだが、過当競争によって倒産が相次ぎ、唯一残ったのがハワイアン航空だけだったというのがこの15年ほどの経緯だ。
2023年8月現在、ホノルルからハワイ島のヒロ(Hilo)空港への往復運賃は、ハワイアン航空の公式サイト上から購入すると1万5000円弱(1ドル146円換算)だった。
今、米国は異様な物価高かつ円安も加わっているので、これが高いのか安いのか何とも言えないが、ハワイ島日帰りパッケージツアーの参加費が1人5万円以上することを考えれば適価とも言える。
飛行機の窓から見えた島々の楽しさ
ハワイ諸島を結ぶ1時間足らずの航空便に乗るだけなのに、最近は出発の2時間前にはホノルル空港へ来るようにアナウンスされており、検査場では靴を脱いだり、両手を上げて全身スキャンにかけられたりと早朝から愉快ではない役務をこなさねばならない。
アメリカで飛行機はバスのような乗物だったはずで、離島便などもっと気楽に乗れた気がするのだが、テロがいつ起きても不思議ではない時世ということか。
座席間隔を詰められるだけぎっしり埋めたようなハワイアン航空の中型ジェット機に乗っていると、プロペラ機時代ののんびりとした雰囲気や低い高度を飛ぶがゆえの景色を懐かしく感じる。
この120席超を備えたジェット機は機体こそプロペラ機よりかなり大きいが座席間隔は異様に狭い。そこに8割ほど客が埋まっている。これくらい詰めなければ採算ラインに載せることが難しいのだろう。
飛行機に乗ると愚痴めいた話ばかり出てしまうが、眼下に諸島の姿が見えると、急に嬉しくなり右側の窓を眺めることに夢中になってきた。
島の上を飛ぶモロカイとラナイはよほどの覚悟がないと行けない場所だけに陸地が見えただけでも興奮するし、米軍の元演習地で現在も一般人の上陸を拒むカホオラウェの平べったい島影は目に焼き付けておかなければもったいない。海面には岩礁のような無人島・モロキニ(Molokini)も微かに突き出している。これらは飛行する高度が高いからこそ見えた島々かもしれない。
こちらと反対の左側座席では、先日大火災が起きたばかりのマウイ島ラハイナ(Lahaina)の街が見えないかと窓に顔を近づける客が目立っていたが、遠くて確認ができないようだった。
この便はホノルルを飛び立つと、モロカイとラナイ両島の上空を通り、右手に少しだけカホオラウェとモロキニの姿を見せながら、マウイ島の南西にあるリゾート地「ワイレア(Wailea)」付近にいたるコースを飛んでいる。
ワイレアの海岸線に広がるゴルフ場を右の眼下に映してハワイ島のヒロ方面へと向かっている様子なので、左側の窓ならば3000メートル級のハレアカラ山(Haleakala)が見えているのかもしれない。一気に両側の窓が眺められる方法があったならと思う。
なお、ホノルルからハワイ島へ向かう飛行機に乗るなら、おそらく左側の2列席から窓を眺めたほうが楽しい。
ワイキキのホテル群やダイヤモンドヘッド(Diamond Head)、ハナウマ湾(Hanauma Bay)といった著名観光スポットを空から眺めるだけでも価値がありそうだし、この日は、マウイ島の上空にかかると北部のカフルイ(Kahului)あたりまで見渡せたようだった。
ただ、ラナイ島やカホオラウェ島、モロキニ島を眺めるなら右側の3列席が適しているともいえ、選択はなかなか難しい。
飛行コースは一定かどうかは分からないし、そもそも雲が立ち込めていれば何も見えないので、このあたりは運に任せるしかないのかもしれない。
ハワイアン航空のボーイング717-200型機は、マウイ島とハワイ島を隔てるアレヌイハハ海峡(Alenuihaha Channel)の上空を軽く越えると、窓の外に大陸めいたビッグアイランドが近づいてきた。
標高4000メートル超のマウナ・ケア(Mauna Kea)とマウナ・ロア(Mauna Loa)の両火山に行く手を遮られた白い雲が多くなる。
ホノルルからハワイ島のヒロまではわずか55分の飛行だが、変化に富んだ窓の外を観察していると、空港での不快な検査も機内の窮屈さもすっかり忘れてしまう。
今朝のように天気が良い日なら3往復くらい乗って座席を左右に移動しながら窓の外を何度も眺めていたい気持ちになったが、ヒロ空港へ近づくと急に雨粒が窓に打ち付けてきた。
富士山よりはるかに高い両火山に遮られた貿易風が雨雲を生み出し、ヒロあたりは常にそのたまり場となっているらしい。
年中雨が降っている街なので“名物”と出会えて嬉しいと言えなくもないが、ヒロは街としての格が高いのに観光客が少ないのは独特の気候もあるのだろう。
雨の街「ヒロ」とリゾート地「コナ」

州観光局によるハワイ島の案内図、地図右側の東海岸に「ヒロ」、左側の西海岸に「コナ(カイルア-コナ)」がある。面積はハワイ諸島の別の7つの島がすっぽり入るほど大きい(2019年5月、ハワイ州観光局オフィシャル「ハワイ島ガイド」より)
島の東側にあるヒロが雨雲をせき止めるので、反対の西側にあるコナ(Kona)(カイルア-コナとも呼ばれる)は雨が少なく乾いた気候で、ハワイ島を代表するリゾート観光地になっている。かなり以前からJALが成田空港から直行便を飛ばしているほどだ。
雨が多い気候もあってリゾート地になれなかったヒロだが、20万人超が住むハワイ島では最大の町で、ハワイ郡(Hawaii County)の郡庁所在地でもある。
ハワイ州(諸島)の人口規模で言えば100万人(2020年調査)が住むオアフが米国有数の「大都会」として知られるが、それに次ぐのが人口20万のハワイ島で、3番目はマウイ島(16.4万人)、4番目がカウアイ島(7.3万人)なので、2番手の島の“首都”であるヒロは、ホノルルに次ぐ第二の都市だと言われている。
ただ、空港を見ると、ハワイ島では西側のコナが観光客を呼び込む国際空港という位置付けで、東側のヒロは“国際空港”と称されてはいても、実際には諸島便だけが細々と飛ぶローカル空港という地位だ。ナンバー2都市なのに少し寂しい。
雨の空港に降り立つと、同じ便で来た100人超いたはずの乗客は迎えの車や駐車場に消え、構えは立派だが人の気配が少ないターミナルビルの前に取り残された。
空港からヒロの中心部まではそれほど離れていないので小1時間ほどかければ歩いて行くこともできなくはないが、今は路線バスが日中1時間に1本の割合で乗り入れている。ターミナルビル前に掲げられた小さな看板前で待っていればいい。
長い間、公共交通によるアクセス方法がなかったヒロ空港だったが、中心街までの路線バスが乗り入れているあたりに、ハワイ島の「ヘレオンバス」が地道に発展を遂げてきたようで嬉しくなった。
意外と使えるハワイ島の路線バスを使った旅を紹介していきたい。
(2023年10月公開)
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