旅先としてハワイの魅力を第一に挙げるならば、「TheBus(ザ・バス)」と名付けられた路線バス網にあると自信を持って答えたい。
ワイキキやホノルル空港のあるオアフ(Oahu)島内に100以上の路線を張り巡らせている公共交通機関で、日本で言えば都市が運営する「市バス」のような存在といえる。
南国独特の気候とリゾート感に満ちたビーチをはじめ、“本土”から遠く離れた離島なのに林立する買物スポットやホテルなどは、ハワイに観光客を惹き付ける大きな要素となっているが、そうしたものにあまり関心を持てない層にも異国の離島旅を楽しませてくれる存在が「TheBus」ではないかと思う。
ハワイ諸島の中心地となっているオアフは、沖縄本島と石垣島を合わせた面積より少し大きいくらいの規模を持つ島で、そこに100万人が住んでいる。
この島には毎年、人口の5倍とか6倍といった数の観光客が押し寄せてくるが、そうした人々に向けては「トロリー」と銘打たれた観光客用の路線バスが別に走っているし、レンタカーを使って移動する層も多い。
オアフ島の住民用という位置付けの濃い「TheBus」は、日本の都市部を走る路線並みにバス停の数が多いので乗降に多くの時間を要する。その行先も観光地ではない場所が大半で、表示を見てもどこへ行くのかよくわからない。
観光の中心であるワイキキも含めて観光スポット近くにも停留所は置かれているが、どの路線が通るのか、いつバスが来るのかなど、日本のように丁寧な案内は期待できない。バス停には時刻表もなければ、停留所名さえも記していないのである。
観光地を手際よく巡るには「トロリー」やレンタカーの利用が確実に便利だが、大した用もないのに鉄道や路線バスに乗ることを悦びとしてきた人間にとっては「TheBus」の環境は悪いものではない。
聞いたことも見たこともない名の地へ向かって、目的の異なる地元客が乗り降りを繰り返しながら毎日走り続けている路線バスに身を置き、旅ができるというのは、なんて魅力的なのだろうかと思う。
オアフは南国の離島なのでどこからも海が近く、車窓はおおむね良好で、適度に都会的な風景もあって退屈しづらいのもいい。
100万人が住む大都市の路線バスなので運行本数もそれなりに確保されており、突然砂漠の広がる終点で降ろされ、さ迷ってしまうようなこともないだろう。
「TheBus」の公式サイトには、大まかな路線図と運行時刻表が公開され、近年は「DaBus(ダ・バス)」というバス接近をリアルタイムで知らせる無料アプリも提供中だ。
島全体がアジアからの観光客に慣れていることに加え、日本各地を源流とするどこか見慣れた顔つきの日系住民が一定数居住しているせいか、英語の不自由な層にもそれほど冷淡ではないようにも感じる。
米国50州の一つであるハワイ州は130年ほど前まで「王国」の離島だった名残りからか、どこかのんびりしていて、治安面での不安は米国本土ほど大きくはない。

今年(2023年)6月末には「TheBus」の路線網を補完するような形で「スカイライン(Skyline)」という名の鉄道路線も部分開業した。ついにハワイは路線バスの旅だけでなく、“鉄道旅”さえできる島になったのである。
この夏、十数年ぶりにハワイを訪れる機会に恵まれた、というか自ら創出した。
新型コロナウイルス禍明けで高騰した航空運賃やホテル代金、日本人からは異世界にも見える現地の物価高に加え、両替する度にうんざりさせられるほどの円安にも見舞われ、旅をするうえでの好条件は何一つ見つからなかったが、ハワイ初の都市鉄道が開業という出来事はそれらを打ち消すほどの衝撃だった。
オアフ島の「TheBus」と新鉄道「スカイライン」、そして別の離島であるハワイ島の路線バスも含めて、訪問者が少しでも役立つような情報を書き残したい。
これまで幾度かハワイへ訪問し、ビーチで泳いだことも、食料以外の買物も積極的に行ったことのない類の旅行者だが、そんな人間でもこの諸島の楽しみ方があることを示せればと思う。
(2023年9月公開)





