ロンドン空港、3つの鉄道アクセス考

日本からの直行便が発着するロンドン・ヒースロー空港(Heathrow Airport=LHR)は、3つの鉄道路線が乗り入れており、市内中心部までの運賃面や利便性では地下鉄が優位だが、英国鉄道の雰囲気を味わうなら空港アクセス列車「ヒースロー・エクスプレス (Heathrow Express) 」が適している。

ロンドン中心部から25キロほど離れた「グレーター・ロンドン(大ロンドン=ロンドン市内)」の西端に位置するヒースロー空港。

「ヒースロー空港2&3ターミナル駅(Heathrow Terminals 2 & 3)」で地下鉄ピカデリー・ラインに乗るなら「アンダーグラウンド(Underground)」と書かれた場所が乗場となる。“Underground Station”と表記されることも(2024年12月)

ロンドン地下鉄(London Underground)の「ピカデリー・ライン(Piccadilly Line=あい色の路線)」が乗り入れているほか、別に「ヒースロー・エクスプレス」が走り、近年は郊外鉄道「エリザベス・ライン(Elizabeth line=むらさき色の路線)」も設けられ、中心部のボンドストリート(Bond Street)駅などへ30分ほどで結ぶようになった。

「ヒースロー空港2&3ターミナル駅(Heathrow Terminals 2 & 3)」でエリザベス・ラインやヒースロー・エクスプレスに乗る場合は「トレイン(Trains)」という文字が目印となり、“Rail Station”と表記されることも(2024年12月)

ヒースロー空港への鉄道アクセスをまとめると、次のような特徴がある。運賃額や情報は2025年1月時点、日本円は1ポンド200円で換算した。

ロンドン地下鉄「ピカデリー・ライン」(Piccadilly Line=あい色の路線)

  • ロンドンの真ん中とされる「ピカデリー・サーカス(Piccadilly Circus)」やバッキンガム宮殿最寄りの「グリーン・パーク(Green Park)」、パリ・ベルギー方面への「ユーロスター」が発着するセント・パンクラス駅直結の「キングス・クロス・セント・パンクラス(King’s Cross St. Pancras)」など市内中心部の主要駅に直行できる
  • 運賃(紙チケット)は6.7ポンド(1340円)。交通系のICカード「オイスターカード(Oyster Card)」(入手時に7ポンド必要)やクレジットカードのタッチ決済、アップルペイやGoogleペイなどのモバイル決済を使えば5.6ポンド(1120円)まで下がる(自動改札機にタッチすればそのまま乗車可能だが、改札機によっては反応が悪い場合があるので決済端末やカードが認識されているか否か必ず確認を)運賃は2025年3月2日に値上げし、空港から中心部まで5.8ポンド(1160円)、紙のチケットは7ポンド(1400円)となった
  • 駅数が多く、たとえばJALやANA便が到着する第3ターミナルに近い「空港2&3ターミナル(Heathrow Terminals 2 & 3)」駅からピカデリー・サーカス駅まで途中に18駅あり、乗車時間は50分以上におよぶ
  • 中心部はバリアフリーではない駅が目立っており、荷物が多い場合は少し覚悟が必要
  • ピカデリー・ラインの公式案内ページはこちら
  • 地下鉄全般については「ロンドン地下鉄の高額運賃と脱現金化」の記事も参照を(チケットについてなど)

郊外鉄道「エリザベス・ライン」(Elizabeth line=むらさき色の路線)

  • 地下鉄に対し“郊外快速線”といったイメージの路線で駅数は少ないが、ターミナル駅の「ロンドン・パディントン(London Paddington)」や、地下鉄2路線と接続する「ボンドストリート(Bond Street)」と「トテナムコートロード(Tottenham Court Road)」などの駅へ直行できる。ロンドン交通局が運営しているが、ロンドン地下鉄の路線とはみなされていない
  • 空港2&3ターミナル駅からは1時間あたり6本程度の列車があり、パディントン駅まで約28分、ボンドストリート駅まで約31分、トテナムコートロード駅まで約33分。空港側の始発着駅は「空港5ターミナル(Heathrow Airport Terminal 5)」と「空港4ターミナル(Heathrow Terminal 4)」の2通りあり、5ターミナル発着が1時間あたり4本、4ターミナル発着は2本の割合
  • 運賃はパディントン駅まで12.2ポンド(2440円)、ボンドストリートなど周辺駅までは13.3ポンド(2660円)とロンドン地下鉄と比べ割高(2025年3月2日に値上げし、パディントン駅まで12.8ポンド(2560円)、ボンドストリート駅など中心駅まで13.9ポンド(2780円)となった)
  • ユーレイルパス(Eurail Pass)」や一部の「ブリットレイル パス(Britrail Pass)」でも乗車可能(いずれも空港からのエリザベスライン区間のみ、ロンドン地下鉄への乗り換えは別途運賃が必要)
  • 新しい路線なので駅のバリアフリー設備が充実。なお、2025年5月から英国ロンドン市交通局のもとで日本の東京メトロ住友商事が路線の運営受託事業に参画する予定
  • エリザベス・ラインの公式案内ページはこちら

直通列車「ヒースロー・エクスプレス」(Heathrow Express)

  • 空港2&3ターミナル駅からロンドン・パディントン駅までノンストップ・約15分で結ぶ空港アクセス専用列車。空港側の始発着駅は空港5ターミナルで1時間あたり4本程度を運行。自由席だがほとんどの列車で座って移動が可能、荷物置場も完備し、ストレスが少ない
  • 片道の基本運賃はスタンダードクラス(Standard Class)が大人25ポンド(5000円)、ビジネスファーストクラス(Business First Class)は大人32ポンド(6400円)と短距離にしては高額。事前購入により10ポンド(2000円)まで割引となるチケットもある。大人に同伴する15歳までの子どもは運賃無料
  • 英国内の鉄道が乗り放題となる「ブリットレイルパス」の一部でも乗車可能(ユーレイルパスは不可)
  • 空港とロンドン・パディントン駅間をノンストップで単純往復するだけの路線のため、他の地下鉄路線へ乗り継ぐ場合は、地下鉄「ピカデリー線」や郊外鉄道「エリザベス・ライン」の利用時より結果的に所要時間が長くなる場合もある
  • ヒースロー・エクスプレスの公式サイトはこちら

以上がヒースロー空港に乗り入れている3つの鉄道路線の概要だが、物価高騰で鉄道運賃自体が高くなっていることに加えて円安なので、日本人にとっては少し考えさせられるレベルの運賃額といえる。

ヒースロー・エクスプレスが持つ価値

ロンドン・パディントン駅に到着したヒースロー・エクスプレス(2024年12月)

今回、宿泊するホテルが地下鉄「ピカデリー・ライン」沿いの駅近くだったため、安さと乗り換え不要という利便性を考えれば地下鉄を使うのが順当だったが、迷うことなく「ヒースロー・エクスプレス」に乗車した。

羽田空港から雲ばかり見せられ続けた約15時間のフライトに疲れ果てた、という背景もあるが、鉄道発祥の国・イギリスに来たからには、到着早々からその雰囲気を味わいたいといった理由からだった。

ヒースロー空港2&3ターミナル駅ではヒースロー・エクスプレスとエリザベス・ラインが同じ狭いホームに到着するので、乗り間違いに注意したい(2024年12月)

ヒースロー・エクスプレスの車両は窓こそ大きいが関西の「新快速」とそう変わらない設備。わずか15分の乗車に25ポンド(5000円)も支払う価値があるとは思えない列車だが、そんな環境ゆえかあまり混んでいないのはいい。

空港2&3ターミナル駅では券売機操作に苦労する外国人観光客が列を成していたので係員からクレジットカードでチケットを購入したら、土曜日のためか割引が存在し、それを適用してくれたようで、通常片道運賃より5ポンド(1000円)安い20ポンド(4000円)で乗車することができた。

ヒースロー・エクスプレスの「スタンダードクラス」車内、20分程度しか走らないためか座席をはじめ簡素な設備(2024年12月)

そんなヒースロー・エクスプレスで最大かつ最高の価値だと個人的に思っているのが、ロンドン・パディントン駅の行き止まり式地上ホームに到着することにある。

巨大なドーム状の屋根に覆われた終着駅のホームに降り立った瞬間から旅が始まる気持ちになれるし、鉄道発祥の地ならではの威容に圧倒されてしまう。その昔、“はるばる来たぜ、函館~”という歌があって、当時は遠かった終端駅の函館に着くと口ずさみたくなったが、行き止まりのパディントン駅でも“ついに着いたぞロンドン……”と高い天井を見ながらつぶやきそうになる。

ターミナル駅の「ロンドン・パディントン」、終端式となった地上ホームは常に賑やか(2024年12月)

ロンドンを訪れる機会の少ない者にとって、終端式ホームを発着する列車や大きな荷物を持つ乗客の姿を眺めているだけで気持ちが高揚し、先ほどまで続いた飛行機苦行も忘れ去ってしまった。

ロンドン・パディントン駅が常設されたとされる1854年は、日本で言えば江戸末期の「嘉永」という時代で、日本初の鉄道が新橋と横浜間に誕生する20年近く前のことだ。

観光的な要素では、アニメや映画化もされた名作絵本「くまのパディントン」(日本では福音館書店刊)はこの駅が由来となっており、“パディントン・ベア”の像が1番線ホームの大型時計近くに置かれているほか、グッズの販売店もある。

線路の終端側から見て左手の1番線ホームの時計近くに“パディントン・ベア”の像が置かれており、入場券や乗車券がなくてもアクセスが可能(2024年12月)

ヒースロー空港からの郊外鉄道「エリザベス・ライン」もパディントン駅を通っているが2022年に完成したばかりのホームは地下深くに置かれており、終着駅の雰囲気は味わうことは難しい。

また、日本では明治39年と呼ばれた1906年に誕生した地下鉄「ピカデリー・ライン」は、古さこそ十分だが、通勤路線なので旅という雰囲気にはほど遠いだろう。

ヒースロー・エクスプレスは、英国での鉄道の旅を盛り上げる最初の演出として、個人的には欠かせない存在だと思っている。

)ロンドンのターミナル駅については「ロンドンの終着駅で味わう鉄道200年」の記事も参照を


)なお、ロンドン周辺にはもう一つ、郊外に「ロンドン・ガトウィック空港」(London Gatwick Airport=LGW)という著名空港が置かれており、「ガトウィック・エクスプレス(Gatwick Express)」や「テムズリンク(Thameslink)」など複数の鉄道アクセス路線が設けられている

(2025年1月公開)

記事「ロンドン地下鉄の高額運賃と脱現金化」はこちら

記事「ロンドンの終着駅で味わう鉄道200年」はこちら

ヨーロッパ鉄道紀行の記事一覧はこちら