ハワイ鉄道「スカイライン(Skyline)」の車窓には島の日常や今しか見られないであろう原風景が連続する驚きと、オアフ(Oahu)の近未来に起きる変化を想像する楽しみもある。ワイキキ(Waikiki)を抜け出し“ハワイ鉄道旅”に出掛けてみた。
オアフ島の西部、通常は観光客がほとんど行く機会のない17キロ超の末端区間で2023年6月末に開業した鉄道は「スカイライン」と名付けられ、公共交通機関としての運営が始まっている。
(※その後、2025年10月に国際空港「レレパウア」駅の先にある「カハウィキ(ミドルストリート・カリヒトランジットセンター)」まで延伸してアラモアナ方向へ少し近づくとともに、空港から「The Bus」に乗り継ぎやすくなった。2025年10月17日追記)
ハワイ諸島では、日本でいう「戦後すぐ」という時代まで人やモノを運ぶ鉄道が活躍していた歴史がある。ホノルルやワイキキなどの市街地には路面電車も走っていた。
太平洋戦争後間もない頃まで島を半周していた「オアフ鉄道(Oahu Railway)」のレールは今も一部残されて観光運行が行われているし、今夏の不運な大火災で街を再建しなければならなくなったマウイ(Maui)島のラハイナ(Lahaina)では少し前まで観光用の“サトウキビ列車”が有名だった。

旧オアフ鉄道(Oahu Railway)の一部残されたレールと車両を使って観光運行している「ハワイ鉄道協会(The Hawaiian Railway Society)」の公式サイト。偶然なのかスカイラインの終着駅・クアラカイ/イーストカポレイ(Kualaka’i/East Kapolei)から比較的近い場所(徒歩約40分)に乗車拠点があり、そこからさらに島の西部まで鉄道に揺られることもできる
ハワイの歴史上では「スカイライン」が初の鉄道というわけではないが、観光用でも貨物輸送と兼用でもなく、都市の大量輸送を担う近代の鉄道システムとしては初めてといえる。
なんだか分かりづらい説明だが、どこの大都市にもある「地下鉄」がハワイにも誕生したと考えると理解しやすい。
地下にトンネルを掘らなくても地上に鉄道用地が確保できたオアフ島では「高架鉄道」という形になっているが、担う役割は都市地下鉄とまったく同じで、都市の移動客を大量に高速で時間通りに輸送することを目的としている。
100万都市のオアフの公共交通としては路線バス網「TheBus(ザ・バス)」があり、全米でも優秀な公共交通機関として評価されているが、道路渋滞だけはコントロールができないので定時運行という面では難が生じているし、大量輸送やスピードの面で鉄道にかなわない。
移動の中心を自家用車が担っているオアフ島では、毎朝のローカルニュースで天気予報とともに渋滞情報が流されるほどに朝夕の自動車混雑が激しく、この解消は住民の大きな関心ごととなっている。
渋滞解消の切り札として鉄道の“復活”は半世紀以上前から構想されていたが、幾度も政治の場に出たり消えたりして一向に進まない。
ある時期には島西部とホノルル間の渋滞緩和につなげられないかと「TheBoat(ザ・ボート)」なる海を使った公共交通機関さえ模索したことがあった。

もはや覚えている人さえ少ないはずの「TheBoat(ザ・ボート)」。2007年9月からTheBusに接続する形でホノルル港の「アロハタワー(Aloha Tower)」から島の西部・カポレイ地区にある「カラエロア(Kalaeloa)港」まで海上を結んだがそれほど長くは続かなかった
その後、鉄道計画は2008年に住民投票にかけられ、僅差ながらも賛成を得られたことで、ようやく2011年に起工式を開ける段階までこぎ着けることになる。
ただ、工事が始まってからも資金不足などで計画変更が続き、最近は新型コロナウイルス禍もあって完成時期の後ろ倒しが繰り返された末、着工から10年ほどかけてようやく暫定的な開業までたどり着いたのが今回のスカイラインである。
今からちょうど15年前の現地新聞「ホノルル・スター・アドバタイザー(Honolulu Star-Advertiser)」には、「上手くいけば2012年には鉄道が完成するので、便利になる」といった住民のコメントが紹介されていたので、地元では当初構想から10年くらい開業が遅れた感覚だろうか。
高速道路などとともに巨大公共事業の筆頭格である鉄道路線を新設するには、小さな子どもが青年になるくらいの時間はかかるものだし、ましてや半世紀以上も鉄道を見たことがなかった太平洋の離島で、鉄道自体に関心が高いとはいえないアメリカ合衆国内において開業できたこと自体が奇跡とも言える。
真珠湾近くのハラワ駅から出発
現在、スカイラインの都心側で起点となっているのが「ハラワ(Halawa)」という駅だ。(※2025年10月から都心方面へさらに延伸し、「カハウィキ(ミドルストリート・カリヒトランジットセンター)」に変わっている。2025年10月17日追記)
私のような日本人観光客には耳慣れない地名だが、「アロハスタジアム(Aloha Stadium)」という場所の説明が副駅名のように付されている。
アロハスタジアムは、「スワップミート」と称される巨大なフリーマーケットが定期的に行われている会場として、古くから観光ガイドブックにも載っている。
ワイキキから「TheBus」の「20番」や「42番」に1時間半以上揺られれば片道3ドルでアクセスでき、ホノルル国際空港からは30分ほど、「パールハーバー(Pearl Harbor=真珠湾)」のアリゾナ記念館(Arizona Memorial)に近く、バスでも10分もあれば着く距離だ。自動車ならもっと近い。
(※)ワイキキからアロハスタジアムまでの「TheBus」については「空港とワイキキ結ぶ『20番バス』の旅」に詳細
パールハーバーにある“フリマのアロハスタジアム”から出ている鉄道、というのが分かりやすい覚え方かもしれない。なお、本来の用途であるスタジアムとしては建て替えのため今年春に閉鎖している。
スカイラインの終点は、ハラワから17.7キロ先にある「クアラカイ(Kualakai)」駅で、その場所は「イーストカポレイ(East Kapolei)」と説明がある。カポレイの街の東端に位置しているようだ。
運賃は「TheBus」と同じでどこまで乗っても3ドル。乗車の際は券売機で専用ICカードの「HOLO(ホロ)カード」(1枚2ドル)を買い、3ドル以上をチャージ(ロード)したうえで改札口を通る。スカイラインにはICカード以外の乗車券はない。
日本でSuicaやICOCAが無ければ鉄道に乗せない、なんてことをすると反発を浴びそうだが、もともと「切符」というものを構想せずに生まれた鉄道ということなのだろう。新型コロナ禍の影響で紙による接触を避けようという考えがあったのかもしれない。
開業から何日間かは記念乗車にやって来た客に対し、通常は2ドルのカード代がかかるHOLOカードを無料でばらまいていたそうである。
このICカードは「TheBus」と共通のシステムなので、2.5時間以内であればスカイラインでもバスでも自由に乗り換えが可能となっており、よほどの道路渋滞にでも遭わない限り、ホノルルからスカイラインの終点まで行っても片道分の3ドルで済む。
私はワイキキの「ABCストア」で1日乗車券として使える7.5ドル分があらかじめチャージされたHOLOカードを9.5ドルで購入してきた。
1日あたりいくら乗っても7.5ドル以上は引かれない仕組みになっているのだといい、コロナ禍もあって紙による「1日券」の販売をやめて“自動化”したかったのだろう。
レールを使った“輸送システム”
ハラワ/アロハスタジアム駅の閑散とした駅前には、黄色いラインを巻いた「TheBus」の車両がぽつぽつと停車しているバスターミナルと、500台は停められそうな大型駐車場が設けられており、バスや自家用車からの乗り換えを意識したつくりとなっている。
今回開業したスカイラインは、オアフ島全体で見ると西部のわずかな区間に過ぎないため、近くの駅までは自家用車や路線バスで移動して乗り換える「パーク・アンド・ライド」に複数の駅で対応した。
高架下に設けられた駅は、HOLOカードの販売機と自動改札機くらいしか目立った設備がなく、全駅無人のためか駅事務所のようなものも待合室らしきものも見当たらない。
がらんとした構内には、演壇みたいな細長い机を置いて蛍光色のベストを着た案内人兼監視員らしき係員が1人立っているが、客が少ないので手持無沙汰感がある。
エスカレーターで2階に上がると、ホームドアに囲まれたホーム上も、簡素なベンチと電光掲示の発車案内標が見られるくらいで、路面電車の近代的な停留所といった雰囲気だった。
緑色の帯を巻いた“白い電車”は、前面は流線形風だがどこか角ばって見えるデザインで、これは日本の日立製作所が買収して傘下に招き入れたイタリアの「日立レール」という会社によるものだという。
少し昔までイタリアで走っていた特急列車「チザルピーノ(Cisalpino)」のようなデザインと言えなくもない。
車両の大きさは「電車」と「モノレール」の中間くらいに見えたが、長さは19.5メートルだといい、日本でも多くの鉄道車両が20メートル前後なので、大きく変わらない。
1編成4両あたりの定員は立ち客も合わせて最大約800人。「TheBus」の幹線に導入されている大型連接バスと比べても6倍以上は軽く乗れる。速度も時速100キロ超で走れるとのこと。
スカイラインには日本の新幹線と同じ幅のレールが敷かれているので「鉄道」には違いないのだが、自動運転の車内には運転室もなく、車両や駅の設備を最低限にまで削り取ったシンプルさは、「レールを使った輸送システム」とでも表現できそうだ。
日本で言えば、東京の「お台場」を走る「新交通ゆりかもめ」の車両を少し大きくして、ゴムタイヤではなく車輪を付けてレール上を高速で走らせる、といった感じだろうか。昔ながらの重厚長大な“鉄道”ではないことは確かだ。
住民の賛否が分かれた鉄道計画
出発する前に説明が長くなってしまったが、オアフ島の“スカイライン鉄道システム”に乗って17キロほど先にある終点へ向かいたい。
列車は10分に1本の間隔(2023年8月現在)で定期的やってくるので、「TheBus」のように何の情報もないバス停で長く待つこともない。このあたりは「さすが鉄道」といえる。
車内はベンチのような2人掛けシートが並んでいて、通常は運転席があるはずの先頭部は“展望席”として前面を眺められるスペースとし、自動運転ならではの特等席となっている。
1車両約200人という定員に対し、この列車の一番前の車両に乗っているのは10人ほど。自分も含め半分くらいは記念乗車といった感を漂わせる客で、開業からまだ2カ月足らずなので、現地の人にとってもめずらしさがあるのだろう。
この四半世紀ほどの間、オアフ島では新たな鉄道建設は選挙の争点やニュースの話題など、定期的に表舞台に登場してきた。2008年には30万人近くの有権者が住民投票で賛否を直接示している。
15年前の住民投票時に53%しか賛成が得られなかった鉄道ではあるが、建設遅れなどのマイナス面も含めて何かと関心は喚起できていたようで、6月末の開業から何日間かは運賃を無料にしたこともあって満員電車並みの盛況を見せていたという。
郊外から郊外を結ぶ区間のみ開業
ハラワ・アロハスタジアムを出発した列車は、左手遠くに真珠湾の光る海原を車窓にちらちら見せながら、幹線道路「カメハメハ・ハイウェイ(Kamehameha Highway)」に沿ってつくられた高架上を快調に走っていく。
街の中心部とみられる付近には大型のマンションも幾つか建っているが、低い屋根の平べったい一戸建て住宅が窓の左右を埋めている。
どこか沖縄郊外の街にも似ており、窮屈とは言えないが、閑散ともしていない家並みを車窓に映し出す。
時おり、異様に大きいショッピングセンターや、上下10車線くらいある広大な幹線道路が現れるあたりが米国の離島らしいところだろうか。
最初の「カラウアオ/パールリッジ(Kalauao/Pearlridge)」駅を過ぎ、次の「ワイアワ/パールハイランド(Waiawa/Pearl Highlands)」駅あたりまでは真珠湾沿いに開けた人口集中地帯で、ワイアワの駅前には47階建てのツインタワーマンションも見える。
オアフの中心部であるホノルル(Honolulu)までつながっていれば、今列車が進んでいるパールシティ(Pearl City)やワイマル(Waimalu)といった人口の多い街から客を拾えそうだが、現時点では郊外から“さらに郊外”を結ぶ区間しか開通していないため、乗降はきわめて少ない。
このスカイライン計画は、最終的にワイキキ(Waikiki)に隣接する「アラモアナ・センター(Ala Moana Center)」まで全30キロ超の路線とする予定だが、いつになれば全線開通できるのかは今のところ誰にも分からない。

2023年8月現在のスカイラインの路線図兼計画図、ホノルル中心部まで開通するにはまだかなりの時間を要する(ホノルル高速交通公社(HART=Honolulu Authority for Rapid Transportation)によるスカイライン公式サイトの路線図を一部加工)
まずは2年後の2025年にハラワ駅側から見て国際空港の先、ホノルル近郊に位置するカリヒ(Kalihi)という街の外れにあるバスターミナル(トランジットセンター)付近の「カハウィキ/ミドルストリート・カリヒトランジットセンター(Kahauiki/Middle Street・Kalihi Transit Center)」駅まで8キロほど延伸すると告知されており、少し都心部に近づける。
【※追記】2025年10月16日にハラワ駅から先、国際空港駅(レレパウア)も含め、カハウィキ=ミドルストリート・カリヒトランジットセンターまでの延伸部分が開業すると発表されています。最新情報はスカイラインの公式サイトも参照ください(2025年8月31日追記)
この区間はすでに高架橋も駅もほぼ完成しているように見えるので、示された開業時期の確実性は高そうだが、その先のホノルル都心部まで伸びる「2031年」という想定時期は、本当なのだろうかと思う。
幹線道路上や原野のようなところで土地買収に支障が少なかった郊外部とは違い、ホノルル中心部は建物が密集しているし、土の下にはハワイ王国時代の歴史的な遺跡も眠っていると聞く。アラモアナ・センターへの延伸は想定時期さえ示されていない状態だ。
ある時期まではワイキキ方面へ伸ばす構想も存在し、そんな路線図も公開されていたが、アラモアナ・センターまででも不透明感が漂っているのでそれどころではないのだろう。
全線開通への道のりは険しいが、2025年に国際空港へ乗り入れる可能性が高いというのは、旅行者にとっても朗報といえる。

ハラワ駅の路線図にも「カハウィキ駅/ミドルストリート・カリヒトランジットセンター(Kahauiki/Middle Street・Kalihi Transit Center)」までの開業を前提としたものが掲出されている
空港からスカイラインに乗り、もっとも都心側の終点「カリヒトランジットセンター」まで行けば、ここはTheBusの一大拠点なのでワイキキなど多くの場所へアクセスできる。
長く見て3年以内に、ハワイ到着後すぐに鉄道や路線バスに気軽に乗れる環境となっていたならば、個人的に嬉しさしかない。
駅名に採用されたハワイ語地名
人口の多いワイアワ駅に続き、列車はハイウェイの合流地点に築かれた「ハーラウラニ/リワードコミュニティカレッジ」駅に着くが、この場所は住宅らしきものがない。
リワード短期大学の最寄り駅となる一方、キャンパスの隣には巨大な車庫が設けられていて、スカイラインの運行拠点となっている。短大と車庫という一大公共施設のために設けた駅のようだ。
この先は、島西部の先端部まで通じる幹線道路「ファーリントン・ハイウェイ(Farrington Highway)」沿いに転じ、パールハーバーの西側を進んでいく。
次の「ポウハラ/ワイパフトランジットセンター(Pouhala/Waipahu Transit Center)」も4万人以上の人口を持つワイパフ(Waipahu)の街につくられた駅で、駅前にはTheBusのターミナルがある。
ワイパフトランジットセンターは、鉄道の開業前から島の最西部などへ向かうバス路線の拠点となっていた場所で、重要な「トランジットポイント」の一つだ。ワイキキからも急行便の「E系統バス」や生活道路を延々と走る「42番バス」もやってくる。
ポウハラの次に現れる駅は「ホーアエアエ/ウェストロッホ(Ho’AE’AE/West Loch)」という名で、次第に駅名を覚えるのも難しくなってきた。ホゥ、アエ、アエと発音するらしい。
スカイラインの駅名はハワイ語を語源とするものが採用されているが、単独だと分かりづらいので現在広く知られている街や通りの名、施設名が副駅名のように付されている。長々とした“駅名”になっているのはそのためだ。
ハワイ語駅名の多くには、「アフプアア(Ahupua’a)」と呼ばれる古代の土地区分名が使われており、これまで通ってきたハラワ駅やカラウオア駅、ワイアワ駅、ハーラウラニ駅、今停まっているホーアエアエ駅などがそれだという。
街の名として使われているハラワを除いて、今は広く知られなくなった地名が目立つが、ホノルルやワイキキもアフプアアの一つだと考えれば、駅名に採用することはハワイの鉄道として自然なことといえる。
日本で言えば、地図上からは消えてしまった小字(こあざ)や周辺地域だけで通用していた通称地名を表舞台で復活させるようなものだろうか。日本では海外文化が入ってきても古くからの地名は変わらなかったが、ハワイでは米国風の名を付けられた地も目立つ。
王国時代に「養魚池」の名だったというポウハラ駅のようなケースも含めて、鉄道開業を契機にハワイ独自の古き地名や歴史的名所の名を蘇らせようとしている。
日本でも行政名や住所より駅名のほうが有名になった地は多いので、この先「ハーラウラニ」とか「ホーアエアエ」という名が場所の理解とともに広く通じるようになれば、スカイライン開業の成果といえるだろう。
最大の見所は終点までの3駅間
ハラワからホーアエアエまでの6駅間は、都市郊外の日常生活を垣間見られるという点での楽しさがあり、列車の速度もそれなりに速く快適で、高架上から遮るものなく見渡す車窓の眺めは良好だ。
太平洋の離島に築かれた100万人都市のベッドタウンを観光客が見る機会は多くないので、めずらしさも感じる。
どこかのホテルがスカイラインを「新たなアトラクション」と表現していたが、確かに日帰り観光先としては悪くはない。
そのうち、「ハワイ初の高架鉄道で行く、ロコ御用達ショッピングセンターで買物体験」みたいなタイトルで、ワイキキのホテル送迎付きで1人30ドルくらいに設定した旅行商品をJTBとかHISの現地法人が企画しているかもしれない。住民が日常使いする大型のショッピングセンターなら沿線に嫌というほどある。
鉄道旅としては、ホーアエアエ駅まで13分間ほどの風景も興味深かったが、この先、終点までの3駅間にこそ、スカイラインでしか見られない車窓が凝縮されている。
ワイパフの街の西端に位置するホーアエアエ駅を出ると、突如としてビルや家といった建物が一切消え、赤っぽい土の耕地が一面に現れた。
ずっと並走してきたファーリントン・ハイウェイからも離れ、右も左も広がる農地のなかに独自のルートで築いた高架橋を快適に走るスカイライン。一瞬にして“都会”から“田舎”に変わる車窓はダイナミックだ。
駅前に耕地しか見えない「ホノウリウリ/ホオピリ(Honouliuli/Ho’opili)」駅は、巨大な駅前駐車場以外に「何もない」場所で、日本ならその手の愛好家に喜ばれるだろう。
主要道路の交差点上につくられた次の「ケオネアエ(ケオネ、アエ!といった発音)/ハワイ大学ウエストオアフ(Keone’ae/University of Hawaii West Oahu)」駅は、ハワイ大学ウエストオアフ校の新しいキャンパスの最寄り駅として、駅前住宅開発も進んでいるようだが、周辺はまだ耕地が目立つ。
高架橋の向こうにまとまった住宅地も時おり現れるが、都会らしい風景はほとんど見えないまま、原野めいた地に設けられた「クアラカイ/イーストカポレイ(Kualaka’i/East Kapolei)」駅で20分超にわたるスカイラインの旅は終わった。
都会的なものを排した離島の車窓に美しさを感じる暇もなく、急激な変化に唖然とさせられたまま前進を打ち切られてしまった。
耕地につくられた鉄道の意味
終着となったクアラカイの駅前は、片側3車線ほどある主要道路「クアラカイ・パークウェイ」が通っていることと、高架橋のとなりに日本でも活動するキリスト教系宗教団体が設けたプール施設があるくらいで、スカイラインお得意の駅前巨大駐車場も整備されていない。
日本の国鉄時代によく見られた赤字ローカル線終着駅の現代版といった様相で、なぜこんなところが終点なのか、と疑問を抱かせるには十分な風景だ。
ぶつ切られた高架橋の先には新興の住宅地が広がり、その向こうには「カ・マカナ・アリイ(Ka Makana Ali’i)」というオアフ島有数の巨大ショッピングセンターも置かれているが、高架橋はその直前で唐突に切れている。
「TheBus」が循環しているので、それでアクセスできるということのようだが、なぜ?という疑問を持つ住民は多いらしく、開業時に地元のテレビ局もそうした話題を取り上げていた。
今から12年前、スカイラインの起工式が行われたのは、このクアラカイ駅の場所だった。
「こんな野原に駅をつくって、渋滞解消にどう貢献するというのか」と鉄道反対派から呆れられたほど、周辺は原野のような状態であった。

クアラカイ駅前には主要道路の「クアラカイパークウェイ(Keahumoa parkway)」が通り、「TheBus」も走る。道路の向こうで農地などとして使われている一帯は宅地開発する土地として位置付けられている
公共用地を持っていたことが駅を設けるきっかけだったのだろうが、とにかく着工できる箇所から始めていくのは鉄道や道路工事の鉄則的なところがある。
なにより、周辺が何もない耕地だからこそ、ホノルル郡(Honolulu County)の政治・行政関係者にとっての魅力も大きかった。建物を立ち退かせる苦労を省き、莫大な資金を投入しなくても比較的自由な開発計画をつくることができるからだ。
今、駅の周辺にある住宅地や生活道路、宗教団体のプール施設や巨大ショッピングセンターも含めて、すべてスカイラインの起工式前後の時期に着工または完成したものである。耕地のなかに現れたこれらの建物は、鉄道計画にともなう行政の土地利用誘導がなかったとは考えづらい。

クアラカイ駅の真横にある建物はキリスト教系団体「救世軍」によるコミュニティ施設「クロックセンターハワイ(Kroc Center Hawaii)」で、鉄道計画とともに設けられた。プールなどは会員になれば誰でも使えるという。なお、救世軍は日本でも神田神保町に大きな本部ビルを置いている
鉄道計画とともに行政が描いたまちづくり計画書によると、クアラカイ駅前を通る主要道路「クアラカイ・パークウェイ」を挟んで水田も見られる駅前の一帯は、住宅地などとして開発する土地として線引きしている。
すでに400メートルほど先の道路沿いには、擁壁で囲んだ新たな住宅地が築かれた。
最後の未開発エリアと近未来像
今は未開の地のように見えたクアラカイ、ケオネアエ、ホノウリウリの3駅だが、「東カポレイ(East Kapolei)地区」という名で鉄道開業を前提とした開発計画の策定は終えている。
ケオネアエ駅前に広がるハワイ大学ウエストオアフ校は、まちづくりの中心的な存在として2012年にキャンパスが新設されたばかりで、こちらもスカイライン起工式が行われた直後のことだった。今後も拡張できるだけの土地を有している。
ホノウリウリ駅では、場所を示すために付されている「ホオピリ(Ho’opili)」という巨大なサトウキビ畑の跡地で、民間事業者による住宅地の大型開発がすでに進められている。
ホオピリはオアフ島を代表する農地の一つだったことから宅地化に反対する声が目立ち、長年におよぶ審議や裁判の末に1万1000戸超の開発が許可された。

米国の大手住宅建設会社「DRホートン」が2018年5月に公表したホオピリ(Ho’opili)の都市計画図には、カポレイエリア全域の開発計画にも触れられている。現在は公式には消えてしまったカポレイへ鉄道延伸構想の想定路線図も書き込まれており、クアラカイ駅の先にある大規模ショッピングセンター「カ・マカナ・アリイ(Ka Makana Ali’i)」付近に駅を設け、さらに先のカポレイ中心部近くまで延伸する構想であったことが分かる(2018年5月、D.R.Horton「Hoopili Urban Design Plan」より)
オアフ島では、ホノルルに次ぐ第二の都市として古くから西部にある「カポレイ(Kapolei)」の街を位置付けている。実態としてそのようになっているのかどうかは分からないが、イーストカポレイにある3駅はいわばホノルル方面からカポレイへの入口となる場所だ。
なかでもホオピリは、開発事業者が言うところの「最後の未開発エリア」として、“首都・ホノルル”を結ぶ鉄道計画を機にどうしても手を付けておきたかったという意思が感じられる。
住宅価格の高さでは全米有数と言われるこの島で、カハラ(Kahala)に象徴される富裕層が目立つ東部はともかく、中間層が家を持ちやすくするためには行政主導で西部を宅地開発しようというのは必然とも言える。
一方、食料やエネルギーなどのほとんどを海の先に依存し物価が高くなっているハワイで、先人が守ってきた優良な農地を宅地化するという考え方は、自給という面からも理解できないという意見はもっともだろう。
ハワイの環境破壊を促す最たる存在だと言われている観光客群の一人として、島の未来がかかる政策の是非について何かを言うべき権利はない。
ただ、スカイラインを開業させ、車窓に今しか見られない貴重な風景を映し出してくれたことには大きな感謝の気持ちを抱いた。
(2023年9月公開)
(※)一連の「ハワイ鉄道・バス紀行」として公開した原稿一覧はこちら














































